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うさぎの独り言

第五回

時間よ止まれ!!
- 短工期化ヒートアップ現象? -

■ ご飯をかきこむ?食事における短工期化現象

昨今の風潮として、短い時間で勝負が決まることが好まれるようになってきているように感じるのは筆者だけでしょうか?

食べ物の世界では、冷凍食品、フリーズドライ等が重用され、“電子レンジでチン。”や使う少し前に冷蔵庫から出して自然解凍すればおかずとして立派に通用するように調理されたものが少なくありませんね。コンビニでは、使い捨てのお皿などに仕込まれていて、食器なども不要なものまで出ています。

確かに、下宿している学生さんや単身赴任者、それに一人暮らしのお年寄りには便利なものかもしれませんね。でも、たまにはいいでしょうが、常食となるとどうでしょう。味付けが平板なだけにいずれ飽きがくるのではないでしょうか。

また、ファーストフード等や大手居酒屋チェーンでは、注文してから何分で品物が提供できるかが勝負の中心にあるようです。そして、お客さんの方もちょっと待たされると、妙にいらいらしてくるという感情に支配されてはいないでしょうか。

そもそも、食事とは、飲み、食い、語らいながらコミュニケーションを楽しむものではないかと思います。ただ空腹を満たすだけの儀式として捕らえたのでは余りにも淋しいですよね。

■ 住宅産業に起こったプレファブリケーションの波

建築に起こった短工期化の流れ、それは住宅産業が先鞭をつけたのではないかと思います。バブル真っ盛りの頃、新居を建設するには、一時仮住まいを余儀なくされました。当事、都心では、仕事の集中化を背景に、人口集中が起きていました。当然、仮住まいをするには、高い家賃を払わなければなりませんでした。在来型の工務店による新居建設では、最低半年の工期が必要でしたから、新居購入に高額のローンを組んだ上、仮住まいのために高い家賃を6~8ヶ月分も負担するというのは、相当抵抗が強かったと思います。

そんなことを背景にして、それまで伸び悩んでいたプレファブリケーションいわゆるプレハブが、日本でも急速に伸びていきました。着工から竣工までおよそ3ヶ月、これは当事大きな魅力だったと思います。もちろん、一方的な押し付け型のプレファブからオプション選択の出来るチョイス型のプレファブに切り替わっていったことも大きかったと思います。

ここで、それまで余り表立ってこなかった工期という概念が建設業界でも注目されるようになりました。同時に、“短工期”というキーワードが、プレファブメーカーのカタログに散見されるようになりましたね。

■ ビル建設での短工期化の芽生え

住宅産業で発生した短工期化の流れは、やがてビル建設にも適用されていきました。バブル景気を背景に、大都市圏では、建設ラッシュとなりました。一方建設に従事する作業員の方はいっぺんに養成することは出来ません。それなりの技量を身につけるには、職長について一定期間経験をつまなければならないからです。でも工事量は増大し続けました。限られた作業員で大量の仕事をこなさなければならない、そのような課題が持ち上がったわけです。

そこで、塗装、左官工事といった、現場で混ぜたり、塗ったりというある程度の経験を必要とする作業を伴う、いわゆる水物を使う湿式工法から、予め工場加工されてきたものを現場でポンポンとはめ込むだけ、すなわちそれほどの経験を有しなくても作業が出来る乾式工法への切り替わりが、色々な工種で次々と起こりました。

また、施工方法でも、“現場省力化工法”というキーワードが飛び交うようになりました。文字通り、現場での作業を省力化、すなわち減少させる、言い換えれば、工場加工度を上げるということです。部材レベルのプレファブリケーションとでも言ったらいいのでしょうか。少ない作業員数で施工をこなす方法論が次々と編み出されました。

こうして、材料レベル、部材レベルでプレファブ化が急速に進み、その結果、革新的に現場内作業が減少していきました。それと同時に、“短工期化”が進んでいったのです。

■ バブル崩壊後の短工期化は?

バブル全盛期に起きた短工期化は、主に限られた作業員でどのようにして増大する仕事量をこなすかということに対して立案された処々の方策が、結果として短工期化を生み出したといえるでしょう。

それに対してバブル崩壊後の短工期化は何を意味するのでしょうか?前者とは趣を明らかに異にしていると思います。施主、施工者、それぞれの立場で“短工期化”を促進させ続けています。

まず、施主の立場では、建設費の投下から回収までの期間を出来るだけ短くしたいという要求があります。不景気の中で、建設という行為に対して、ある意味、大金を投資するわけですから、借金の期間は限りなく短いのが良いに決まっています。当然、建設をするゼネコンサイドには、短工期化の要求を突きつけることになります。そして、バブル崩壊後、少なくなった建築需要をどうにか獲得しようと、ゼネコン各社は、「我が社は工期○○ヶ月で出来ます。」というプロポーザルを展開していきました。中には24時間体制での生産を前提に工期算出するゼネコンも出てきているように聞いています。

一方、ゼネコンサイドは、厳しい予算の中で、経費の圧縮ということを考えるわけです。まず、社員の最小配置による人件費の縮減、そして次には工期を短縮することによって経費が発生する期間を少しでも縮めるという方法論を採用していくわけです。結果、短工期化ということに繋がっていきます。

このようなことを背景にして、発注サイドとゼネコンサイドが共通のベクトルを持つことになり、“短工期化”がバブル崩壊後も加速されていきました。

同じ短工期化といっても、創意工夫の結果生み出されたバブル期のものとやむにやまれぬ種々の制約条件下で発生したものとでは、性格が大きく異なります。

■ ストップ・ザ・短工期

建設現場における24時間操業の生産体制は、様々な付けを生み出しています。そもそも、現場は、野帳場と呼ばれ、空調が完備したオフィス空間とは根本的に異なります。夏の暑さや冬の寒さを直接肌に受けながらの業務では、身体への負担は相当なものになりますね。スポット的な徹夜作業ならいざ知らず、日常的にそのような作業が続くのであれば、厚生労働省的にではなくとも大きな問題になるでしょう。

そしてもっと重要なことは生産物の品質が低下するということです。皆さんも経験があるでしょうが、徹夜続きで作業をすると、集中力が途切れ、決して満足のゆく仕事が出来ませんね。学生時代の試験でも、一夜漬けなら何とか良い成績を採れることもあるでしょうが、試験期間全部を一夜漬けでこなすとなると結果は推して知るべしですよね。「普段、もっとまじめに勉強しておけばよかった。」と後悔の念に苛まれた方も少なくないですよね。

過労死等が日常的な話題となるにつれ、労働安全衛生面からの労働者に対する保護政策が遅ればせながら叫ばれ、整備され始めました。施主サイド、ゼネコンサイド共に、もう24時間操業の生産体制を是認する環境ではなくなりました。昨今では、環境問題への対応が進んでいるヨーロッパの影響を受けてか、物に対する環境対応型の施策が打たれるようになっています。これからは、物だけではなく、人に対する環境対応型の施策が早急に立てられていくべきでしょう。人間の生命を脅かす、あるいは犠牲にしての建設行為は改められていくべきだと思います。

■ 時間よ止まれ!

バブル崩壊以降、なんとなく充実感が少ない、あるいは実りの薄い仕事が続いてる感覚を感じておられる方は、建設業界ばかりではないと思います。

ちょうど、空腹を満たすためだけの食事、時間が来たから採る食事、みんなが食堂に行くから自分も行くといった主体性のない食事等、半ば義務的な感覚で無味乾燥的に食物を口にすることになれてしまってはいないでしょうか?

そういった行動の中からは、決して創造的な事も、楽しい話題も生まれてきませんね。牛のように、ひたすら黙って反芻しながら草を噛む姿が浮かんできます。冒頭の食事の話に戻りますが、楽しく飲み、食い、語らいながらコミュニケーションを図る本来の姿にもう戻るべきでしょうね。

そのためには、20分ではなく、最低でも30分、すなわち、今の1.5倍くらいの時間を取って食事をするべきでしょう。そうすれば、栄養のバランスもよく、消化にもよい健康的な食事ができ、身体も屈強なものに変わっていくと思います。

建築においても、1.5倍とは言いません、せめて今より20%工期を増やせば、必ずや良い品質の建築物が提供できるものと信じております。“時間よ止まれ!”、そう叫びたい昨今です。

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