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粉体塗装技術レポート(文:野平修氏)*

Chapter 3

高耐候性ポリエステル粉体塗料から
超耐候フッ素樹脂ハイブリッド粉体塗料への展開(1)

アルミカーテンウォールの高耐候性の焼付け塗装の歴史

アルミカーテンウォールの高耐候性の焼付け塗装といえば、1980年代半ばからカイナー500系(PVDF)のフッ素樹脂焼付け塗装が台頭し始め、その後20年以上にわたり超高層ビルの外装仕上げとして君臨してきた。1987年に新川崎Mビルのアルミカーテンウォールに同材料で2コート1べークシステム(当時の日本では2べークシステムが一般的)を始めて導入した。竣工20年経過時点で表面仕上の損傷度調査を実施したが、全く劣化が認められず、この塗料の優秀性を改めて実感したところである。

写真・1 ベルリンの超高層ビル

しかしながら、本材料は、溶剤型塗料であるための欠点も有している。フッ素樹脂塗料は、

  • ① 溶剤型塗料であることから塗装時にトルエン、キシレン等の揮発性有機物質、いわゆるVOC(Volatile Organic Compounds)を大気中に排出し地球環境への負荷の増大や人体への影響を招く。
  • ② 塗装方式が静電塗装であるので、約40%程度発生する被塗物に付着しないロス塗料の廃棄処理をどうするか。

といった環境上の問題を抱えている。そのため、環境規制の厳しいヨーロッパにおいては、早くから粉体塗装の技術が導入され、建築では、高耐候性ポリエステル粉体塗料(AAMA2604ベース)を使用して、写真・1の例のように、超高層ビルの外装アルミカーテンウォールの焼付け塗装仕上げとして採用されるにいたっている。ところが、日本においては、カイナー500系の浸透度が強く、『外装材にはフッ素。』が合言葉のようになっているため、高耐候性ポリエステル粉体塗装を採用されるお施主様、設計事務所は、その内容について十分に検証され、その性能の高さに納得されたところに限られ、現在までの施工案件は中規模、超高層ビル外装カーテンウォール等に採用したもので2006年からの10年弱で20物件程度である。

今回、タイガーコーティング社が、QUALICOAT(ヨーロッパの建築用アルミニウム塗装品質保証規格)の最上位規格であるクラス3の認定を2012年末に受けたシリーズ86、超耐候フッ素樹脂ハイブリッド粉体塗料を上梓した。これにより、カイナー500系に対する信仰が深い日本においても次第に水平展開さていくものと思われる。

もちろんシリーズ58(高耐候性ポリエステル粉体塗料)とシリーズ86(超耐候フッ素樹脂ハイブリッド粉体塗料)では、表・1に示すように、性能、コストに若干の差があるので適切な使い分けが必要であると考える。通常のメンテナンスができるビル外装ではシリーズ58を、タワー建築等なかなかメンテナンスがし難い、いわゆるメンテナンスフリーが要求される外装等ではシリーズ86を選択していくといった使い分けが重要と考えている。

今回は、超耐候フッ素樹脂ハイブリッド粉体塗料に着目し、その位置付け、使用上の留意点や実施例に言及したいと考える。

表・1 粉体塗料の性能比較と価格比較

*野平修氏 野平外装技術研究所代表 元鹿島建設建築本部技師長

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