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粉体塗装技術レポート(文:野平修氏)*

Chapter 1

テラコッタ風粉体塗装

― 外装フィン部材への展開 ―

1.はじめに

昨今の外装意匠の特色として、テラコッタが採用されるケースが増えてきていた。ところが東日本大震災の発生の影響で、テラコッタは採用したいものの、地震時にこのような重量物が剥離、剥落すると大変危険であるという認識が施主、設計者サイドに芽生えだした。テラコッタの雰囲気は捨てがたいという要求と安全性は担保したいという要求がぶつかり合う状況が発生した。そこでテラコッタ風粉体塗装についての生産体制を確立し、前述の要望を実現するに至ったので、ここに紹介したい。

写真・1 テラコッタ風粉体塗装の表面性状

AAMA2604相当の性能を有するかについて、初期性能と長期耐久性について確認したので以下に示す。

2.テラコッタ採用時の心構えと現状の問題点及び代替提案

外装仕上げとしてテラコッタを採用する場合には、風圧力、地震力に対する対応を十分に検討することが大前提だが、十分な検討を経て採用されているケースはあまり多くはないと思われる。

そこで、アルミニウムのような軽量の金属部材の上に、表面仕上げとしてテラコッタ風粉体塗装を施すことが一つの有力な代替案となると考える。以下にその場合のメリットを示す。

  • ① 粉体塗料に特殊チップの粉体塗料等を混入することで、テラコッタの風合いを出すことが可能である。
  • ② アルミニウム下地に粉体塗装が可能であるので、軽量化が図れる。
  • ③ 下地、ファスナー設計が容易でコスト縮減効果が大きい。

3.テラコッタ風粉体塗装の性能

テラコッタ風粉体塗装は、内部にも採用されるが、基本的に外部に採用されるケースが多いことから、AAMA2604相当の高耐候性ポリエステル粉体塗料(タイガードライラック社シリーズ68)の性能が不可欠である。この粉体塗料に特殊チップ粉体塗料をある比率でブレンドして、テラコッタの風合いを持たせたものである。そのことで独特のテクスチャーが表現できる。このテラコッタ風粉体塗料を『TERRAPOWDER』と称する。

3.1.初期性能

初期性能についての分析結果を、表・1に示す。①~⑩の試験項目すべてで全く問題なく、また、参考で実施したエリクセン試験でも塗膜の割れの発生や剥がれもなく良好であった。

表・1 テラコッタ風粉体塗装の初期性能

写真・2 膜厚の測定

写真・3 光沢度の測定

写真・4 塗膜硬度の測定

3.2.長期耐久性能

長期耐久性として、湿気の影響を受けるかどうかの耐湿性、海塩粒子等の影響を受けて腐蝕しないかどうかの耐食性(塩水噴霧試験)、紫外線の影響で劣化しないかどうかの耐候性について確認した。

耐湿性、耐食性とも3,000時間経過時点で大きな問題は生じず、長期耐久性も確保できていることが判明した。

また、促進耐候性試験でも、通常は劣化により白亜化が進み白っぽくなるが、テラパウダーの場合は反対に濃い目に代わり実用上の問題はない結果となった。

写真・5 耐湿性の結果

写真・6 耐食性の結果

写真・7 促進耐候性試験結果

3.3.メンテナンス性

塗膜の初性能では問題のないことが確認できたものの、実際に設置された後で塵やほこりが付着した場合にどうなるかとか、人為的に傷を付けられた場合にどうであるかといった、いわゆるメンテナンス上の問題が気になるところであろう。

埃程度であれば、乾拭きで対応すればよく、汚れが目立つ場合には中性洗剤と水拭きで清掃することが可能である。

あまり考える必要はないが、万が一、補修が必要となる傷が発生した場合には、溶剤型1液ウレタン塗料を作成しスプレー塗装することで、傷を目立たなくすることが可能である。

4.テラコッタ風粉体塗装への切り替えによるコスト縮減効果

テラコッタの価格は、ピンからキリまであるので、一概に比較はできないが、内部での使用で、地震力だけを考慮することでいい場合、テラコッタの重量に比べアルミ型材への変更で重量が1/3程度に軽減できるとすれば、支持部材やファスナー等が軽微なものに変更できるので、そのコストメリットは20~25%程度でるであろう。

また、一般的なテラコッタの製品価格に対し、粉体塗装の価格はおおよそ1/3~1/5程度と考えられ、アルミ型材のコストと合わせてもコスト縮減効果は相当大きいと思われる。

5.施工例:日本大学新病院(仮称)新築工事

  • 施主:日本大学
  • 設計:伊藤喜三郎建築研究所
  • 施工:鹿島建設東京建築支店
  • ルーバーメーカー:LIXIL(国内)、三協立山
  • 粉体塗料製造元:タイガードライラックジャパン
  • 粉体塗料販売元:大興物産東京支店
  • 粉体塗装施工元:カドワキカラーワークス

5.1.テラコッタ風粉体塗装の流れ

表記については、カドワキカラーワークスの工場において、きちっとした品質管理体制の元、粉体塗装を実施した。写真・8~11にその一連の流れを示す。

今回、PCカーテンウォールに取り付くテラルーバー部材を想定して、ライン製造検証、各種塗膜性能等の品質管理試験を実施したが、いずれも高い評価を獲得することができた。すなわち、塗膜性能基準であるAAMA2604及びクオリコートⅡの規格値を満足させることができている。また、促進耐候性試験については、2000時間経過時点で大きな問題は起きていないことから、テラコッタ風粉体塗装を、本仕様で施工すれば、外部使いとしても支障はないと判断する。

写真・8 粉体塗装の状況

写真・9 同アップ

写真・10 焼き上がり

写真・11 色見本との照合

5.2.現場取付け

現場取付けは、テラコッタ風粉体塗装を施したユニットを、現場内でPCカーテンウォールにセットし、所定の位置まで揚重し納めるという方法で実施した。

写真・12 テラコッタ風フィンの状況

写真・13 テラコッタ風フィンのアップ1

写真・14 テラコッタ風フィンのアップ2

写真・15 PCカーテンウォールの取付け

6.まとめ

今回、テラコッタ風粉体塗装という、施主、設計者の興味がかなり高い仕上げ手法について、解説を行った。

これらの仕上げは、これまではともすると“フェイク”すなわち、“偽物”と揶揄されることが多かったが、技術、技量の進歩に伴い、もはや○○風の域を脱しており、既存の仕上げ種別には分類できない程の独自の世界を構築しつつあると筆者は考えている。

テラコッタそのものの採用については、十分に技術的検証を実施し、二重、三重の安全面の仕掛けを施すことで、対応することは可能であると考える。しかし、採用される部位や形状によっては、本物のテラコッタでは安全性に不安があるといった場合も出てくると思われる。

テラコッタの質感や風合いを残しつつ、軽量化を図り、地震に対する安全性を付与できるテラコッタ風粉体塗装の活躍の場は、今後ますます増えるであろう。

*野平修氏 野平外装技術研究所代表 元鹿島建設建築本部技師長

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