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うさぎの独り言

第七回

癒しの季節 - 環境に優しく -

■ 親父の朝

昔を振り返って見ます。30年位前の私の親父の朝は、新聞を取りに行き、ちゃぶ台の前に座って、ゆっくりと朝刊に目を通していると、お袋が朝食を運んできて味噌汁と焼き魚かなんかを食べている、そんな風景が蘇ります。

テレビはついていましたが、ジャイアンツの結果を見るくらいで、ほとんどBGMのようでしたね。時折、私に向かって、“しっかり勉強しろよ。”とか、妹に“母さんを手伝えよ。”とか、お袋に対しては、“今日も遅くなる。”と偉そうに言ってましたね。一方通行ながら、オヤジ流コミュニケーションだったんでしょう。家族の交流と共にゆっくりとした朝の時間が過ぎてゆきました。

■ うさぎの一日はこうして始まる

ひるがえって、現代、うさぎの一日は、こうして始まります。

朝5時に起きて、まずはパソコンのスイッチを入れてから、シャワーを浴びます。風呂から出ると、パソコン画面上にテレビを立ち上げます。瞬時に、政治、経済、社会といったニュースがこれでもかこれでもかと流れてきます。起きてからここまでたった15分です。

その後、出社までの1時間をブログを書いたり、チェックしたり、メールを読んだり、書いたり、インターネットで調べ物をしたり、まさに電子媒体に支配され続けます。そして朝食は、その合間にヨーグルトとパンとドリンクで簡単に済ませています。(家内の名誉のために言っておきますが、朝からきちっとした朝食は重いのでこうしています。)こうした生活のリズムが結構便利に感じたりしてしまうのですから、随分、筆者もITに毒されているんですね。

■ ストレス社会の狭間で

IT時代になって、利便性は増大したものの、生活速度は速くなる一方です。夜明けと共に起きて、日没と共に仕事を終え、後は団欒という、いわゆる“田園的生活”からはどんどんかけ離れていきますね。

好むと好まざるにかかわらず、あらゆる電子媒体から情報が洪水のように送られてきて、人間の脳は、絶えず刺激され続けています。人間は、全く外的刺激がないと老化が早まるそうですが、反対に刺激を受けすぎると精神的なストレスが蓄積されていくようです。そして精神的なストレスがかかった状態下で、肉体が刺激を受け続けると、一種の防衛本能なんでしょうか、それを拒否する反応が身体的に現れますね。花粉症、シックハウス症候群等、外的刺激物が肉体に作用して起きる現象ですね。

このような症状は、昔はさほど騒がれませんでしたね。精神的に安定していた時代より精神的なストレス過剰時代に入ってからの方がこのような現象が増加しているように感じるのは、筆者だけでしょうか?

■ “癒し”の流行

最近、新聞紙上やテレビなどで、盛んに“癒し”とか“ゆとり”という言葉がみられますね。リラクゼーションやエステ等も同類の言葉でしょう。とにかく、“癒されたい。”とか“ゆとりをもちたい。”という気持ちが、現代人の心には大きく刻みこまれているのでしょうか。こうした“癒し”や“ゆとり”が流行るのは何故でしょうか?これは、絶えず、対極にある“ストレス”や“目一杯”ということを常に肌身に感じているからではないでしょうか。

我が家には、12歳になるポメラニアンの“マメ”を飼っていますが、雷に弱く、ピカッと光ったり、ゴロゴロと音がすると、普段は入りたがらないケージに閉じこもってしまいます。ストレスからの回避行動ですね。

ところで、人間も当然、動物の一種ですから、刺激を受け続けると精神的、肉体的にダメージを与えられ、そこから逃れたいという気持ちが強く起きるのだと思います。マメのケージに当たるのが、リラクゼーションルームやエステスペースなのかも知れません。そういう施設を通じて、バランスをとっているのでしょう。そしてそのような施設が大流行ということは、現代人のストレスが相当大きいことを物語っているのでしょう。

■ 高度経済成長、バブル時代の生産

ここで、少し視点を変えて、生産という事に着目してみましょう。

高度経済成長時代、それに続くバブルの時代は、イケイケドンドンの右肩上がりで、生産に次ぐ生産で明け暮れていた感がありますね。とにかく生産効率を上げるためにあらゆる手段を講じていたと思います。飛躍的な生産量の向上と引き換えに、各地の工業地帯の煙突からは例外なく、煙もくもくで、青空がかき消されていました。

この時代は、確かに社会資本を始め、物がなかったですから、とにかくその整備を短期間に図らなければならなかったですね。団塊の世代を背景とした“モーレツサラリーマン”や“企業戦士”という言葉が生まれましたね。まさに、自己本位な生産に傾倒していた時代ですね。本当に “目一杯”の生産だったですね。ですから、様々な“ストレス”を発生させることになりました。そして、人間に対しては、色々な公害病が生まれることになりました。これらは、非常に長い年月をかけて、様々な訴訟を繰り返しながら、次第に軌道修正されていきました。

■ 環境に優しい生産

“癒し”や“ゆとり”という言葉と同じくらいに、最近は、“環境に優しく”という言葉もよく聞きますね。前者は、人間に対して“直接的”に働きかけるものであるのに対し、後者は、環境に配慮することによって、最終的には人間に働きかけるという“間接的”なものです。

例えば、車の排ガス規制、建築材料からのVOCの発生量の抑制、アスベストの除去等、人間に危害を加える“刺激物(ストレス)”の低減という動きが活発ですね。

ここにきて、生産においても、“自己本位”ではなく、まず、“他人を気遣う”という配慮、いわゆる“環境に優しい”が、全面的に取り上げられるようになりました。21世紀に入り、ようやく、人間個々人が“癒し”や“ゆとり”を欲するように、社会も“ストレスからの解放”、すなわち“癒し”や“ゆとり”ということを意識するようになったんだと思います。

■ 塗装業界における環境対応

最後に、読者の皆さんが関係する塗装業界における“環境に優しい”を見てみましょう。最近ではアルミカーテンウォールの生産過程での環境対応や脱公害化が要求されるようになってきています。現在、耐候性に最も優れるといわれるフッ素樹脂塗料の問題点、①溶剤型塗料であることから塗装時にトルエン、キシレン等の揮発性有機物質、いわゆるVOC(Volatile Organic Compounds)を大気中に排出し地球環境への負荷の増大や人体への影響を招く。②塗装方式が静電塗装であるので、約40%程度発生する被塗物に付着しないロス塗料の廃棄処理をどうするか。③焼付け塗装の前工程での化成皮膜処理において毒性を有するクロム酸クロム(6価クロム)が使用されている、等の環境上の問題を抱えています。

VOC排出量削減対策としては、①溶剤型塗料から水性塗料への移行、②溶剤型塗料からハイソリッド塗料への移行、③溶剤処理施設の使用、④溶剤型塗料から粉体塗料への移行等が考えられています。その中で、筆者が最も注目しているのが、粉体塗料への移行です。既に3現場実施しました。

また、クロム酸クロム(6価クロム)による化成皮膜処理は、環境規制が厳しくなると毒性の少ないリン酸クロム(3価クロム)による化成皮膜処理への切り替え、さらには耐久性に優れる厚膜の陽極酸化皮膜処理の採用が必要となってくるでしょう。関係各位の積極的なチャレンジを是非お願いします。

■ 癒しの季節

今回は、個人における“癒し”とか“ゆとり”に始まり、社会における“癒し”とか“ゆとり”、すなわち、“環境に優しく”を取り上げました。

何よりもスピードが優先されるIT時代において、ふと立ち止まり、廻りを見渡し、物事を大局的にみることが、今こそ重要だと思います。“目一杯”の中からは決して新しい発想は生まれませんね。“IT時代”の次に控えているのが、“情緒の時代”のように感じるのは、筆者だけでしょうか?

ここまで書いてきて、机の上の時計が、午前5時を告げようとしています。まもなく、パソコンのスイッチを入れ、シャワーを浴び、風呂から出て、パソコン画面上にテレビを立ち上げる、そんな時間が迫って来ました。うさぎにとっても “情緒の時代”はまだ遠い気がします。(笑)

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