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うさぎの独り言

第一回

赤坂うさぎ参上

■ 口上―これからしばしお付き合い願います

私の名前は、“赤坂 うさぎ”と申します。

“赤坂”は、小生が勤務しております某建設会社の所在地で、“うさぎ”は、生まれ年(昭和26年)の干支から取ったものです。その昔は、外見が色白であった事から、“うさぎ”とイメージしたものですが、ここ3年ほどは、週末に10から15km位、関東近郊をウォーキングしているため、すっかり色黒になってしまいました。まぁ、黒いうさぎもいることですから良しとしましょう。さて、この度、編集の方からペンネームで随想を書いてはどうかとの投げかけを頂きました。私は、建築エンジニアですから、ハードな技術論を寄稿することが多かったのですが、中学、高校の頃は文学青年を気取っていたので、元来、日記やショートショートの類をしたためることは、大好きであります。

50歳を越え、年寄りの冷や水と言われながらも、巷で流行の“ブログ”なるものにも挑戦し、“楽天広場”に“赤坂うさぎのEnjoy寒天&ウォーキング-サラリーマン・今日の散歩道-”と題して写真ブログを公開しています。

“今回、何を書いたら、読者の皆様に楽しんでいただけるか?”色々と考えましたが、余り絵空事を並べても失礼に当たりますし、やはり私が所属している建築業界をベースにした四方山話が興味を持って読んでいただけるでしょう。読者の方々の多くが所属されている塗装業界と比較して、トピックスを読んでいただければ幸いです。また、連載の後半はちょっと雑学的なテーマもとりあげますのでご期待ください。それでは、“赤坂うさぎ劇場”の始まりです。

■ Q・C・D・S・E で語る

皆様、Q・C・D・S・Eとは何か、ご存知でしょうか?建築では当たり前のように出てくる言葉です。建築で考える事象を、この5つの面から捉えることで、かなりの部分を補足できるので、ここで少し解説しておきます。

ⅰ Q(クォリティ:品質)
品質管理、品質事故等、およそ品質に関することを取り上げる。
ⅱ C(コスト:原価)
原価管理、発注・調達等、およそコストに関することを取り上げる。
ⅲ D(デリバリー:工程)
工程管理、海外発注等、およそ工期に関することを取り上げる。
ⅳ S(セーフティ:安全)
安全管理、安全対策、事故等、およそ安全に関することを取り上げる。
ⅴ E(エンバイアラメント:環境)
環境管理、環境対応等、およそ環境に関することを取り上げる。

以降、“うさぎの独り言”が何回の連載になるかはわかりませんが、私の論点もこの5つの切り口で書かせていただこうと思います。

■ QとCはバランスするか?

どんな世界にもグレードと言うものがあります。ところが、昨今、建築業界では、このグレードの概念がどうも怪しげです。塗料業界の方の中には、建築に拘わられている方もおられるでしょうから、多分、実感されているのではないでしょうか?

ここでは判りやすくするため、お寿司の例で話しましょう。

ⅰ 回転寿司レベル
腹一杯食べても2000円程度。業務の簡素化、効率化をはかり徹底的なコストダウンを行なっているが、素材には本マグロは使えない。タラバガニではなくロシア産の油ガニどまりである。
ⅱ 大手寿司チェーンレベル
3000円から4000円、5000円までいかない価格設定が味噌。築地やその他の著名市場から大量購入することで素材の価格低減に努力している。全品とはいかないが、日によってお買い得な近海ものが食べられたりする。
ⅲ 魚のうまい地方都市のすし屋レベル
5000円前後。地元で採れた魚が上がった日は格安で超一流のものが食べられるが、魚の種類は地域限定である。
ⅳ 銀座の高級すし屋レベル
座っただけで10,000円以上。全国各地の超一流魚が食べられるが、普通のサラリーマンでは手が出ないのであくまで社用である。

さて、ここで本題に戻ります。建築の中でも判りやすい外装カーテンウォールを例にとりましょう。

新宿副都心の超高層ビル群建設の時代の外装カーテンウォールは、ここでいうⅳのレベル、すなわち超一流の技術を活用したもので値段も確かに高かったのが事実です。超高層と言うだけで一般の建築とはあらゆる部位でレベルが違うという意識が、ゼネコン、サブコン、メーカーそれぞれに有ったと思います。地方の拠点都市の高層ビル建設の時代は、東京中心の超高層ビルラッシュが一区切りし、いよいよ地方に水平展開と言う段階でした。ですから超一流の技術を意識しながら、サブコン、メーカーも東京での経験を活かし少しずつ地方色を出していった時代です。品質面では或るレベルをキープしながらVEの努力をしていったⅳ~ⅲへの移行期でしょう。

それでは現代はどうか。海外調達、それはまさにⅱ及びⅲの世界です。すなわちその地域にある超一流の技術を使い、大量購入できる材料を使えば、国内と遜色のない製品が出来ます。一例をあげれば、世界的に進出しているアメリカPPG社のフッ素樹脂塗料を品質管理のしっかりした海外工場で化成皮膜処理して焼付け塗装を行なうというようなことです。

確かに、海外調達の初期には、この暗黙のルールが守られ、品質も確保できていたと思います。しかし、昨今はやや暗雲が漂い始めたように感じます。

■ 損して得とれ

昨今のカーテンウォールは、ダブルスキンが標準装備で、表面仕上げはフッ素樹脂焼付け塗装、ガラスは、高透過、セラミックプリント、倍強度、強化合わせ等、最高スペックが盛り込まれております。

然るに価格のほうは、下がる一方です。下落はどこまで続くのでしょうか。

カーテンウォールも前項のⅰ、回転寿司レベルを狙っているのでしょうか。そうなるとタラバガニは出せません。油ガニ、いわゆるまがい物になってしまいます。一時的な空腹を満たすならそれでいいかもしれません。しかし、建築外装は恒久的なものです。偽者が通用するはずはありません。長期的には劣化が生じ必ずクレームになります。

一方、「技術を突っ込んだら仕事が取れないよ。」という考えもあるのではないでしょうか。コスト面だけから検討の結果、一流どころのサブコンではなくそれ以下のサブコンへの発注ということになっているのではないでしょうか。

それでうまくいくならいいのですが、金属・板金工事などは、施主・設計との打合せで対応できない、あるいは製造の段になって「出来ません。」との声が出てくることも少なくありません。こうなると現場は限られた時間で再調整を強いられかえって無駄なコストが発生してしまいます。先に言ったグレードに対するジャッジミスでしょう。

デベロッパーを中心としてお施主さんサイド、大手の設計事務所には技術に詳しい方がおられます。ですから、スペックに対する思い入れは相当なものがあり、簡単に覆ることはありません。

ですから、単に割付け予算に合せるのではなく、施主・設計事務所の要求はⅳなのかⅲなのか、あるいはⅰなのかを見極めた上で折衝することが大切です。すなわち、“グレード”と言うことを絶えず意識しながら、コストパーフォーマンスの高い選択をしていくことが重要でしょう。施主・設計事務所とよく話し合い、どうしたら要求グレードが実現できるか真摯に協議を重ねるべきでしょう。その結果、予算の割振りを変更してくれることもあると思います。誰だって最初から欠陥が出るようなものを望んではいませんから。一瞬、施主や設計に対し盾を突くような事も起こるかもしれませんが、真実をお伝えすべきでしょう。「損して得とれ。」だと思います。

■ ローマは一日にしてならず

1968年に、日本に初めて超高層ビルが建ちました。

その背景には、ゼネコンの技術力だけでなく、サブコン、メーカーとの技術のネットワークの裏付けがありました。知恵を出し合えばたとえ厳しい価格であっても何とか所定の品質レベルに合ったものを提供できると思います。

単なる価格追求に走らず、技術を見据えての値決めが大切です。失われた技術は取り返せません。先達が築いたものを無にしないようにしましょう。「ローマは一日にしてならず。」です。

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