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うさぎの独り言

第二回

バブル Before After
- 海外調達は真の切り札となりうるか? -

■ バブル Before After

バブルの頃でしょうか?

外国から入ってくる仕上げ材料は、“輸入建材”と呼ばれ、並みの国産品に対して、高級建材と言って一目置かれていた時代がありました。デザイン性のあるイタリアンタイルとか段通と呼ばれる高級じゅうたん等、㎡単価の高い商品が事も無げに採用されていました。“金に糸目はつけないぞ。”みたいな主張が、床・壁・天井からそれこそ聞こえてきたものです。

対して、バブルが弾けた以降も、今度は、“海外調達”と言葉を変えて、様々な仕上げ材料が日本に入ってくるようになりました。そして、色々な建築部位に採用され、増加の一途をたどっています。

それでは、バブルの時の“輸入建材”とバブルが弾けた後の“海外調達”では何が違うのでしょうか?前者が高級志向、高コスト化であるのに対し、後者が汎用志向、ローコスト化という、全く逆の方向性を有していることです。

わずか20年足らずの間にこのような劇的な変化はどうして起こったのでしょうか。今回は、この点について探求してみましょう。

■ バブル時代の仕上げ建材達

バブル時代、それは“差別化”の時代であったのではないでしょうか?“超一流のものを使いたい!”、“他と同じでは嫌だ!”、“一味違うものがほしい!”といった要求があらゆる分野に対して出されていたように思います。

建築に対しても同様で、欧米中心の高品質、高価格な建材が選定されたり、どこの建物でもまだ採用していない特殊な素材生産国の新規的な仕上げ材料をあらゆる部位に適用してきたのではないでしょうか。

建材として超一流の物が選択されるのだから、値段が高くなるのは避けられず、また、採用実績が少ない、あるいは、必ずしも建築に適しているかどうか判然としないものまで仕上げ材料として選択してきたので、高級かどうかは別としても確実に高コスト化していたと考えられます。

そうした建材達は、バブル崩壊と共に市場から泡のように消えていきましたから、文字通り、バブルでしたね。

■ バブル崩壊後の仕上げ建材達

バブル崩壊後、それはまさしく“ローコスト化”の時代でしょう。

例えば、バブル期に10から15万円/㎡を大きく超える単価のアルミカーテンウォールが、昨今では、6万円台/㎡と1/2~1/3の価格で生産しなければならなくなった現状では、もはや国内生産では対応できなくなって来ています。いきおい、中国、東南アジア等を生産拠点とした生産体制の選択が増加してきました。

一方、外装カーテンウォールに求められる性能は、室内環境のグレードアップ、すなわち、断熱性、気密性の向上、環境対応型の生産体制の導入に伴う高耐候性ポリエステル粉体塗装の採用等、高度化の一歩を辿っています。

性能のグレードアップとローコスト化という反比例の関係にある事象の中で今、仕上げ建材達はもがき苦しんでいます。

■ 海外調達 ― ハートのエースになれますか?

1990年代後半から海外調達が増加してきています。石やタイルといった単一材料レベルから、最近では天井パネル、軒天パネルといった金属パネル類、ガラスまで組み込んだアルミカーテンウォール等、いわゆるユニット化製品にまで加工されたものが海外調達されるようになって来ました。

JIS規格に相当する材料を安く調達し、それらを加工する生産効率を上げるために最新鋭の加工機を有する海外工場に製造を依頼し、更に製造のための人件費を抑えるために日本の工員より安価な外国人労働力に生産を委託する等して製造コストを圧縮する努力が図られています。その方向性は、間違ってはいませんが、“海外製品は駄目だ!”という厳しい風評が聞こえてきているのもこれまた事実です。確かに、張ったタイルが剥がれたり、焼付け塗装の塗膜がめくれたり、海外調達品がクレームを起こしたケースを筆者も知っています。

諸外国においては、当然のことながら、材料や工法について、日本のJISに相当する国内規格を有する、あるいは欧米の規格を準用するという習慣があります。そして、それぞれの国が採用する規格は、日本の規格と微妙に異なる点が多々あります。そこの解釈をきっちりと行い、翻訳して当該国の工場にいわゆる“日本流”を伝えないと要求とは異なる製品が選択されてしまいます。

また、品質管理の基準についても、総じて日本のグレードは高いのでラインでの品質確保上のオプション管理を指示しないと要求している製品となってこないと思われます。

要するに、間違いない製品を日本に供給するには、契約、製造に入る以前にきめ細かい品質管理に関する指示事項を書面にて取り交わし、時々生産状況をチェックするということが不可欠でしょう。

契約内容も確認せず、㎡いくらで安いから発注するという安易な海外調達は大怪我をするということを肝に銘ずるべきでしょう。それでは、海外調達を真の切り札とするには、何をすればいいのでしょうか?

日本のスペックを実現するには、海外工場に対し、実現するためのオプションは何かを示し、契約事項にしたうえで、オプション費も付加して取り決めを行い、かつ時折生産状況を確認するといった所作が必要だと思います。特に製造開始直後の初回品検査は不可欠でしょう。

ここまでしてなお、コストメリットが出る場合にはじめて海外調達が真の切り札になると言えましょう。

■ 海外調達VS技術コンサルタント

前項で、海外調達は、切り札になると書きました。でも、それにはいくつかの条件をクリアしないといけないと思います。筆者が思いつくままにそれを以下に示そうと思います。

1. 契約関係の処理
日本国内であると、ゼネコン、サブコンの過去からの繋がりで、“1を言えば10を知る。”というような、よくも悪くもいわゆる“なぁなぁ”な関係でそこそこのものが出来てくるものである。例えば、東京駅前のビッグプロジェクトであれば、そこに参画した時点で、“いいものを作らねばならない。”といった気持ちが、ゼネコン、サブコンを問わず起き、そのことがある程度の品質レベルをキープさせることになる。
ところが、日本から遠く離れた諸外国にとっては、東京がどういう都市で、そのプロジェクトがどういう位置づけであるかも理解できない。あくまでも“One of Them”であり、思い入れなど発生しない。
そこで、5W1Hを含む製造にかかわる内容を詳細に煮詰め、契約内容にしっかりと盛り込まないといけない。この作業だけでも大変なコンサル業務である。
2. 当該国の技術レベルの把握
製造を依頼する国の製造工場の技術レベルがどの辺であるかを見抜ける実践的な技術力を有する人によりチェックし、当該スペックをクリアできる製造能力があるかを見極める必要がある。単なるISO認定工場であるとかの書面チェックだけでは駄目である。必要とされる製品の試作品を作成させ、十分な能力があるかを検証すべきである。
3. 日本的グレード、品質管理の定着
当該製造工場の技術レベルが水準に達していることが判明しても、いわゆる日本流の管理が出来ないといけない。それは、単に、製品が性能確保できているだけでは満足されないからである。日本では、特に、意匠性にかかわるディテールの美しさや色むらや肌の仕上りなどきめ細かさが重要視される。感応値に近い部分であり、これは、スペックには書ききれないが、この部分が満足されないと、施主、設計者からは決して受け入れられない。この辺のニュアンスを当該国の製造工場にきちっと伝えられないといけない。

以上、海外調達をして、間違いのない製品を確保するための3つのキーワードを示しました。今まで発生した海外調達品に拘わるクレームは、このいずれかが欠けていたために発生したものと思われます。

海外調達を真の切り札にしていくためにも、今後、この3つのテーマのコンサルティング業務をこなせるコンサルタント陣の充実が不可欠です。事実、筆者もアルミカーテンウォールの海外調達において、技術コンサルティング業務の比率が急増しています。また、廻りの関係者の中にも、アルミの表面処理や焼付け塗装の分野やガラス加工の分野でコンサルタントとして活躍する人が増えています。当該諸国の製造工場も、日本への参入という見地から、彼らの存在を歓迎するようになって来ました。

建築の世界でも、海外調達を通して、真の“国際交流”、“技術交流”が出来る時代に入った、そんな気がする昨今です。

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