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粉体塗装技術レポート(文:野平修氏)*

Chapter 2

鏡面仕上げ風粉体塗装

― ピアノ塗装に対抗して ―

鏡面仕上げというと、通常は溶剤系塗料による鏡面仕上げ(通称:ピアノ塗装)が有名であるが、これであると塗装工程が多く、高コストであり、予算的に使いきれないケースがほとんどであった。これに対し、粉体塗装による鏡面仕上げは、標準仕様で5工程、最上級仕様でも7工程で済み、コストも前者に比べると安価である。

1.溶剤系塗料による鏡面仕上げ(ピアノ塗装)

通常、ピアノ塗装というと、すべての工程で使用する塗料は溶剤系塗料である。従って、下塗り、上塗り、クリア塗装の3段階にわたって強制乾燥、表面研磨の工程が繰り返され、工期、コストともに高価なものとなる。表・1にピアノ塗装の詳細仕様を示す。

工程 溶剤仕様
①前処理 有り
②下塗り エポキシ系樹脂等
③強制乾燥 80~100℃×30分
④上塗り(1回目) アクリルウレタン樹脂等
⑤強制乾燥 100~120℃×40分
⑥表面研磨
⑦上塗り(2回目) アクリルウレタン樹脂等
⑧強制乾燥 100~120℃×40分
⑨表面研磨
⑩クリア塗装 アクリルウレタン樹脂等
⑪強制乾燥 100~120℃×40分
⑫仕上研磨 仕上+ポリッシュ
表・1 溶剤系塗料による鏡面仕上げの詳細仕様

2.粉体塗装による鏡面仕上げ

2.1.定義

ⅰ. 標準仕様
粉体塗装1コート品の表面に研磨仕上げを行い鏡面仕上にしたもの。
ⅱ. 最上級仕様
粉体塗装2コート品の表面に研磨仕上げを行い鏡面仕上にしたもの。
ⅲ. 粉体塗料・溶剤系塗料併用仕様
粉体塗装+溶剤系塗料2コート品の表面に研磨仕上げを行い鏡面仕上げにしたもの。

2.2.材料と詳細仕様

仕上げ 1コート目 2コート目
ⅰ. 項仕様 ポリエステル系樹脂粉体塗料 ※1 無し
ⅱ .項仕様 ポリエステル系樹脂粉体塗料 ※1 ポリエステル系樹脂粉体塗料(クリア)
ⅲ. 項仕様 ポリエステル系樹脂粉体塗料 ※1 アクリルウレタン樹脂溶剤塗料(クリア)
表・2 使用材料 ※1 エッジ部の角は研磨により素地が出易い。研磨を確実に行うためにピン角を避け2R位に面取りする必要がある。
工程 標準仕様 最上級仕様 粉体塗料・溶剤系塗料併用仕様
①前処理 有り
②塗装 粉体塗装 100μ程度
③焼付乾燥 塗料メーカー指定による
④下地調整・研磨
⑤仕上研磨×1 ○(仕上+ポリッシュ)
⑥塗装 粉体クリア 50μ程度
⑦焼付乾燥 塗料メーカー指定による 強制乾燥程度
⑧仕上研磨×2 ○(仕上+ポリッシュ)
表・3 詳細仕様

3.各種鏡面仕上げの長所・短所

前項の各種仕様には、それぞれ長所・短所があるので、ニーズに合わせて最も適切な仕様を選択をすることが重要である。

3.1.溶剤系塗料による鏡面仕上げ(ピアノ塗装)

ⅰ. 長所
溶剤系の液体塗料であるので、微調整ができ、色彩の選択自由度が高い。
調色が比較的短期間で可能である。
ⅱ. 短所
環境対応型では無い。
長期耐久性が劣る。
補修は可能だが、傷つきやすい。

3.2.粉体塗装による鏡面仕上げ

ⅰ. 長所
環境対応型である。
長期耐久性がある。
膜厚が厚く出来る事から効率良く研磨が出来る。
鏡面仕上後、肉持ち感が得られる。
ⅱ. 短所
塗膜がゆず肌になりがちなので下地調整仕上げが入念に必要である。
粉体の塗料であるために、色彩の細かな微調整は効かない(ただし、ドイツ規格のRAL色票から選択すれば、かなりの選択性がある)。

3.3.粉体塗料・溶剤系塗料併用塗装による鏡面仕上げ

ⅰ. 長所
塗装後の塗肌が平滑である。
ウレタン樹脂塗料等が使えるので強制乾燥程度で施工出来る。
ⅱ. 短所
環境対応型では無い。
1コートでは密着が粉体に比べ悪い事から最適な前処理及び下塗りが必要である。
長期耐久性が劣る。
1コートでの膜厚が30~40μ程度なので研磨時の研ぎしろが少ない為、下塗りも含めると3コートは必要となり、効率が悪い。

4.各種鏡面仕上げの総合評価

各種鏡面仕上げの総合評価の結果を表・4に示す。当該案件に要求されるニーズのうち何を最優先にすべきかで、選択する仕様は変わってくる。大まかに言えば、耐候性を前提で、コスト・工期を優先する場合は標準仕様を、コスト・工期にある程度余裕があり意匠性を目指す場合は最上級仕様を選択することが望ましい。耐候性は多少犠牲にしても補修の確率が高い部位に使用する場合には、粉体塗料・溶剤型塗料併用仕様を選択すればよいと考える。

溶剤系・粉体塗料の種別
(詳細仕様の種別)
コスト 光沢 耐候性 納期 補修性 設計価格指標
溶剤系塗料による鏡面仕上げ
(ピアノ塗装)
× × 100
粉体塗装による
鏡面仕上げ
標準仕様 ×(傷つきにくい) 60~65
最上級仕様 ○~△ ○~△ ×(傷つきにくい) 75~80
粉体塗料・溶剤系
塗料併用仕様
○~△ ○~△ 65~75
表・4 粉体塗装による鏡面仕上げの総合評価 1)コストについては、平面のアルミパネルを前提とした概算設計価格指標である。従来のピアノ塗装を100として指標化している。
実効価格は㎡数、難易度により変化する。
2)スチールの場合は割増となると共に、重量によっては塗装+鏡面が出来ないケースもある。

5.施工例

写真・1 某研究所エントランスパネル
(粉体塗料・溶剤型塗料併用仕様)

写真・2 事務所ビルエレベータ三方枠遠景(モックアップ・標準仕様)

写真・3 事務所ビルエレベータ方枠近景(モックアップ・標準仕様)

*野平修氏 野平外装技術研究所代表 元鹿島建設建築本部技師長

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